最新テクノロジーを駆使したブランド初となる旗艦店


ブランドカラーであるブラックとホワイトを基調とした「BULK HOMME THE STAND(バルクオム ザ スタンド)」は、新宿マルイ本館1Fの表通りに面したApple 新宿のちょうど真裏にあたるスペースを占め、誰もがふらっと気軽に立ち寄って、ブランドの世界観とともにメンズコスメを試せる体験型ストアだ。「メンズビューティの革新と発信」をコンセプトに、店内にはクリエイティブを支えるテクノロジーが随所に採用されている。

 

通路に面して設置された
3Dホログラムディスプレイ

 

店舗上部と側面に配置された3Dホログラムディスプレイには、バルクオムのロゴとメイクアップラインのコンセプトムービーが立体的に映し出され、通行人の目を引きつける。店内に足を踏み入れると、中央には大型ミラーサイネージ「デジタルミラー」が3台設置されており、鏡に映った自身の肌の色と比較しながらコンシーラーなどのメイクアッププロダクトのカラー選択が可能で、使い方を説明する動画も一緒に見ることができる。

 

ブランドの世界観に合わせて、ミラーサイネージを組み込む什器の装飾もインハウスデザイナーがディレクションを担当しており、ソフトウエアに関しては、どのように製品提案を行うのがよいのかを社内で議論を重ね、他社サービスをAPIで組み込むのではなく自社で開発したという。

 

店内に設置された
大型ミラーサイネージ
撮影:編集部

 

出店にあたり、株式会社丸井グループからは、スタッフの派遣や店舗デザインの支援のほか、提携クレジットカード「BULK HOMME エポスカード」の発行などの協力を得ている。出店時には同社からのプレスリリースも配信された。

 

野口氏は、ブランドシェア最大化のためのひとつの施策として店舗展開の選択肢は以前からあったと話す。しかし、メンズスキンケア人口が一定数以上にならないと厳しいとの予想から、タイミングの見極めの難しさも感じていたという。今回、出店を決めたのは、ちょうどバルクオムにメイクアップラインが加わり、“メンズビューティ”という価値をトータルで提案できるようになったからだ。

 

「このタイミングならメンズメイクを体験できる場所として、店舗のスペースを贅沢に使い、男性がメイクするという新しいカルチャーを伝えていく発信拠点として、新たなチャレンジができると考えた」(野口氏)

 

株式会社バルクオム
代表取締役CEO 野口卓也氏

スキンケアの延長線上にあるメイクアイテムへのこだわり


店舗オープンと同時に発売を開始したメイクアイテムは、シミ、ニキビ跡、クマなどをクイックにカバーできるコンシーラー「THE CORRECTOR」(全10色)、フェルトペンタイプで汗や皮脂に強く、自然な眉を長時間キープできるリキッドタイプのアイブロウブラッシュ「THE IMPRESSION」(全4色)、メイク崩れ防止だけでなく、素肌に使用してもテカリを抑えることができるフィックスミストの「THE SHIELD」の3種類だ。

 

メイクアイテムについては、これまでも主に20代前半のユーザーから望む声が多く寄せられており、小さいながらも強いニーズがあることを認知していたが、どの時点で、どんなラインナップで、どんな打ち出し方をするかについては、2〜3年かけてじっくりと構想を練ったという。

 

メイクアップライン発売を記念して
発売された数量限定セット
「BULK HOMME THE MAKEUP&TOOLS」

 

開発にあたりこだわったのは、初心者でも簡単に使えて、短時間で少ない工数で完結するものであること、そしてスキンケアの延長線上にあり、メイク自体が肌の負担にならず、かつクレンジング不要で洗顔だけ落とせる処方とすることだ。

 

野口氏は、「メイクの開発は初めての経験だったので、何度も試作を繰り返した。とくに色を決めていく作業が難しく、いろいろなデータを取りつつも最終的には表現したいメイクの世界観を考慮して決めた」と振り返る。

 

現在、メイクアイテムは公式オンラインストアとこの旗艦店「BULK HOMME THE STAND」でのみ販売しており、発売後、約1カ月間の売れ行きは好調だ。店頭では、20〜30代の男性だけでなく、カップルで来店して製品を試す姿も多くみられており、購入者の3割が女性で、自分用またはプレゼント用として購入していくという。店舗事業責任者の同社 Domestic SBU/Business Planning Division 早見崚氏は、「色展開が豊富で、女性も違和感なく使えるラインナップになっている点が支持されているのではないか」と分析する。

 

株式会社バルクオム
Domestic SBU/Business Planning Division
早見崚氏

 

野口氏は、「メンズメイクは、スキンケアとは違い、10年くらいかけて質実剛健に伸ばしていく必要のあるカテゴリー。マーケティングひとつで急拡大するものではないので、地味に、しかるべき販促を積み重ねていって、メンズメイク人口を増やしていくことが当面の目標だ」と語り、スキンケアとは異なる事業戦略を描いている。

デジタルとマス、リアル店舗を組み合わせた施策を積み上げる


株式会社インテージが実施した調査によると、男性化粧品市場は2016年からの5年間で111%に伸長。2020年も前年比104%とコロナ禍でも成長しており、なかでも基礎化粧品は前年比107%となっている。こうした日本のメンズコスメ市場の動きについて、野口氏は「創業した2013年当初と大きな変化はない。毎年3〜5%の成長率でじわじわと積み上がってきているのを感じる」と話す。

 

そんななか、デジタルマーケティングのセオリーに忠実に、着実に成果を積み重ねながらスケールアップしてきたバルクオムは、2020年5月にタレントの木村拓哉氏をブランドアンバサダーとして起用したCM放映を行い、二度目となるマス広告施策を実施した。同年5月度化粧品業種のCM好感度ランキングで1位を獲得するなど話題を集め、メンズスキンケアというジャンルの存在を世間に示した。

 

CM放映については、「新しいチャレンジを積極的にやっていきたい」と考えた社員からの発案だった。野口氏は、2018年に地方限定で実施したCM放映で思ったような成果が得られず、マス広告の難しさを経験していたため、一度は却下したという。

 

しかし、「社員からの粘り強い提案があり、それならやってみようと再チャレンジを決めた。マス指標を徹底的に議論してクリエイティブに落とし込んだ結果、CM放映後には卸し先からの問い合わせが増え、取り扱い店舗数が約2倍になり、小売での売上が全体の2割から3割に伸びるなど、リテール面での反響が大きかった」と振り返る。

 

 
また、2021年5月には、渋谷ヒカリエShinQsの地下1階に、バルクオムの製品を購入できる自動販売機の設置を期間限定で行った。これも「コロナ禍で、非対面で新しい販売チャネルに挑戦できないか」という社員からの発案だったという。この施策では、朝夜1日分のONE DAY KITや1週間分のトラベルキットが売れ、「気になっていた。一度使ってみたい」という潜在顧客層のニーズに応えられたのではないかと分析する。ただし、現段階では自動販売機は積極的に拡大はしていない。多くの人の目には触れるが、「試せない」自動販売機は日本ではまだ難しいという判断からだ。

 

渋谷ヒカリエShinQsに
設置された自動販売機

 

パンデミック以前は、ユーザーミートアップなどのイベントを開催して、コミュニティマーケティングを試した時期もあった。しかし、女性とは異なり、男性はドライなコミュニケーションを好む傾向が強く、イベントよりも毎月届けるノベルティを精査したり、マイページを使いやすくするなどの施策を実施するほうが、LTVが改善することがわかったという。

 

マーケティング施策は事前に調査や仮説を積み重ねても、やってみて初めてフィットするかしないかがわかるケースも多い。バルクオムには、新しい挑戦をしたいという社員からの発案が生まれやすく、そして失敗も恐れない社風がある。前述の「BULK HOMME THE STAND」も、早見氏が中心となってプロジェクトを遂行した。

 

施策やプロジェクトを実行する最終判断を野口氏が行ったあとは、社員に任せることで、一人ひとりが能動的に行動し、組織の強さにつながっていくという。成功、失敗を含め、大小さまざまな施策に取り組みながら、ブランドと相性のよい効果的なマーケティングを取り入れて成長につなげていくという手法は、創業時から変わらないスタンスといえる。

 
2021年10月から9期目がスタートし、今期はブランドシェア最大化のために、これまで培ってきたデジタルマーケティングの強みをいかしながら、マスとリアル(店舗)を組み合わせて、最適な予算配分を考えつつ施策を実施していく予定だという。

 

バルクオムの製品づくりをOEMとして支える株式会社サティス製薬 代表取締役 山崎智士氏は、800にのぼる新興ブランドのそれぞれの成長を支援してきた経験から、「バルクオムはブランドシェア最大化に向けた成長の第二フェーズに突入した」と表現する。

 

「これまでの第一フェーズでは、女性ほどではないにしても、美容に興味と体験を持っていたアーリーアダプター的な男性をターゲットとし、実直なデジタルマーケティング施策の実行と、今までの美容体験と比較して優れていると判断できる製品品質の実現の両輪で成長してきた。アーリーアダプターへのプロモーションも一周回し、次の成長の第二フェーズを支えるターゲットは、まだ美容に積極的ではないアーリーマジョリティと、さらに保守的な購買をするレイトマジョリティである。つまり市場のボリュームゾーンへ突入するタイミングであり、それに備えて、窪塚洋介氏や木村拓哉氏を起用したブランド価値向上施策を打ってきたのだと思っている」(山崎氏)

 

バルクオムは、「ベーシックで品質のよいメンズコスメ」というぶれない軸をもっているが、使い比べて質の違いがわかる第一フェーズでのターゲットユーザーとは異なり、第二フェーズのマジョリティ層は使用体験が乏しいため比較や判断ができない、つまり良さがわからない可能性もあることを山崎氏は指摘する。

 

「その意味で、私が思い浮かべるのはユニクロの戦略だ。ユニクロはベーシックなカジュアルウエアだが高機能というポジションを確立しているため、我々も学ぶところが多いと思っている。フリース、ヒートテック、エアリズムという体験できる機能性製品をフロントにした製品構成とプロモーションでポジショニングを実現した。バルクオムも、このような圧倒的な機能性をエントリー製品にもたせていきたい。ベーシックなスキンケアアイテムであっても、誰でもが『これはすごい』と感じる体験をつくれるか。そういったことをものづくりの面から伴走していきたい」(山崎氏)

グローバル市場攻略に向けた体制を強化


バルクオムは、2020年11月には三井物産株式会社と資本業務提携を行い、三井物産がもつ海外ネットワークを使いながら、現在は、中国、米国、英国をはじめとする10以上の国と地域へ進出している。

 

手応えを感じているのは英国だ。欧州ではフランスに次ぐビューティ大国で、男性性を強く打ち出すメンズブランドが多いなかで、「ニュートラルで洗練されたビジュアルがよい」「香りがよい」という点が高く評価されているという。「日本で受け入れられているポイントが、グローバルでも通用するという感覚が得られたので、激戦区でもホワイトスペースを狙っていけば必ずチャンスはある」と野口氏は意気込む。

 

今後、グローバルNo.1シェアブランドを目指すにあたり、攻略すべき市場が中国だ。これまで越境ECなどのテストマーケティングに取り組んできたが、市場のポテンシャルからも、より注力すべきだと考えている。中国市場をどう攻めて、最短かつ最大限の事業成長を達成するのかについて、長期的な観点から戦略を描き、マーケティング戦略の立案および実行のための組織体制の強化を進めているという。

 

「創立当初から掲げている、世界No.1シェアのメンズコスメブランドになるという目標の実現に向けて、これからも粘り強く、執念の経営を続けていきたい」(野口氏)

 

Text:小野梨奈(Lina Ono)
写真提供:株式会社バルクオム