デジタル化の時代、美容業界のオンライン・オフラインの線引きとは

――今美容業界でもデジタル化が進んでいるじゃないですか。その中で、デジタル化したいところと逆にしたくないところをおうかがいしたいです。

 

黒木:デジタル化でいくと、オンラインの教育っていうのがすごい増えたと思うんです。プラットフォームがたくさん出来てきて、確かに充実してると思うんですよね。とはいえ、オンラインで見ててもできないよって人がいっぱいてて、オンラインで見てできた気になってる人もいっぱいいてる。

 

そういう人たちに伝えていくってのは、たぶんオフラインやと思うんですよね。画面からは伝わってこない熱さみたいなのをオフラインでは伝えやすくて。だから僕はオフラインっていうのがめっちゃ好きなんですよ。オンラインもちろんやるんですけど、オンラインっていうのはオフラインに来てもらうための、まあ広く伝えるための一つのプラットフォームかなって思ってます。

 

結局は来てもらって、その人の人生を変えるっていうかね。その人たちが僕らが伝えたことで取り組んでいただいて、お客様にいただけるギャランティが増えて、で、生活が安定して、っていう風になっていけばいいなと思って。

僕は業界の今2兆5000億円のところを5兆にしたいんですよ。そのためにはもうちょっと市場規模大きくしないとならないと思ってて。まあ要は、日本のユーザーさんが美容師さんに対してこんなにお金払って当たり前だよっていう風になってくれたら、一回1万円だった人が一回3万円払ってくれるってなれば、それが出来るのかなって思うんです。だからそういうのをやりたいなって。ただオフラインだけで全部をって難しいんで、オンラインとくっつけてオフラインも大事にしていきたいなって思ってます。

 

――オンラインはあくまできっかけづくりで、その先にオフラインを準備しているということですね。

 

黒木:そうですね。あとはオンラインで言えないことをオフラインでは言えますし(笑)。一生残るじゃないですか、オンラインって。でもオフは残んないんでっていうのはありますよね。僕は美容の教育の話しか今しないですけどね。

「オンライン/オフラインというのがナンセンス」

木村:まあデジタル・アナログっていうのは、もう昔からそういう論争があって。ただ昔から一貫して言ってるのは、そもそもオンラインなのかオフラインなのかっていうのがナンセンスで、両方使えばいいと。そこにあるんだから。だから美容師さん自体がまずその感性になることが必要不可欠だと思うんですけど、まあそれは今の時代だいぶ是正されてきたと思います。

 

ただ今度は、じゃあオンラインビジネスだ、オフラインビジネスだという方向に向いてるんですね。で、それがまたさらに今後磨かれると思うんですよ。 そうなったときに、物理的な貨幣とかっていうものに価値をあまり感じなくなって、もっと世界的に流通するもの、まあ今だったら分かりやすく言えばドルとかになるんですが、世界の国境がなくなるような方向性になっていくであろうと自分の中では思ってます。

 

そうなったときに、オンラインとかオフラインとか関係なく、どこの国にいても同じ事が出来るような状況っていうのを、ネットワークを通じてやることができると思うんです。 オフラインでもオンラインでも良い面悪い面というものは存在すると思うんだけど、まあ我々の子供世代というところになってしまったら、もうどこのだれか分からない人と楽しくゲームをしてるんですよ。この世界になって欲しいんですよね。そうなった方がもっとビジネスが活発化する。でも騙し合いばかし合いという悪い側面も出てしまうから、そういったところの部分の是正がZ世代以降で行われることを夢見ていますね。

 

――なるほど。フラットに全部考えられて、こういう時はこれ使えばいいじゃんぐらいな感覚ですね。

 

木村:それがいわゆるDAOっていうやつですよね。非中央集権。Web3と言われているようなものだったりとか、そういったところの部分に対して注目してますね。

 

黒木:…これなんか授業料を払う感じの回ですか?

 

木村:いやいや、対談ですから(笑)。

 

黒木:びっくりした(笑)。いやー、勉強になる。

10年後には加速する⁉美容師間の貧富の差、食い止める唯一の対処法

――では続いて、10年後、美容業界はどうなってると思いますか?

 

黒木:まあ今もそうですけど、やっぱり両極化してるんすよね。スキルを売っていくっていうのと、取りに行くっていうのと。僕らはどっちかって言うとスキルを売って独自化していくってことをやってるんですけど、それと面を押さえに行く人たちというのが、今大きく二分化されてるのかなって。

 

まあ言い方変えると、高いか安いかみたいになっていってるのかなって思うんです。でもこれって実は数年前からずっと言われていることで、じゃあ10年後どうなるの?って考えたら、これ加速すんねやろなと思うんですよ。真ん中がなくなるんやろうなって。

 

木村:でも僕正直ね、よくお客さんに黒木さんの話題出すんですよ。「今ストレートパーマで12万円のお店があるんですよ」つって。僕はストレートやんないから。そうすると「12万⁉」って言うから、「だから僕のカラー4万だったら安いでしょ?」って(笑)。

 

一同:あはははは(笑)。

 

黒木:いやでもね、そういうことを僕やりたくて。

 

木村:そう、それでいいんだと思うんですよ。その先駆者でもあると思うから。

 

黒木:僕はカット3万もらってるんですけど、美容師さんで僕より上手い人なんかごまんといてて、でもカット3万取ってる人ってそんなにないんですよ。でもそれぐらいの価値があるはずなんです。それこそニューヨークのトップの美容師さんとかは、15万20万取ってるわけなんですよ。でも日本人で15万のカットの人っていないんですよね。

 

木村:もったいないですよね、上手いのに。

 

黒木:日本ってアジアの美容師さんの中で自分たちがトップやと思ってるでしょ。でもね、金銭的にはそうじゃないんです。メジャーシティの中では大阪・東京なんかもう下の方なんですけど、それを知らないんですよ日本人は。カット1万高いでしょっていうんですけど、高くないんですよ。

 

こんなんがもっとちゃんと伝わるといいと思うんですけどね。本当に日本トップの人たちなんかはカット50万ぐらい取れると思うわけですよ。もう世界でも有名なトップスタイリストの方だっているわけなので。なのにそういう人たちでも2万とか1万5000とか?そんなに高いイメージはないですよね。

 

――そうですね。手の届かない雲の上の人みたいな立ち位置なのに。

 

黒木:いやまじで世界で有名な人なんてね、それこそもうサスーンぐらいの料金もらってくださいよと思うわけですよ。

 

木村:なんならサスーンですからね、いわゆるね(笑)。

黒木:そうですよ。だからそういう方はカット50万円にしてもお客さん来ると思うんですよ。その分一日の人数減らしたらいい話じゃないですか。それでもカット50万やったら1日5人でも250万円入るわけで、売り上げ上がりますよね。だからそういうのをやってくれないと、そのー…こっちも上げにくいですよね。だから、木村さん言ってくれて嬉しかったんですけど、まあ僕ごときがこれくらいやってるよっていうのを、皆さんがこれから上げるきっかけにしてもらえたら嬉しいなと思いますよね。

 

木村:いや、でもすごくきっかけにさしてもらいましたよ。まだ値上げに踏み切ってるサロンさんは少ないと思いますけど、うちも10月から全部10%値上げにしちゃうんで。まあ僕の場合は自分がっていうよりは一律全員ですけどね。

 

黒木:まあ、それが適正な価格に向かうことやと思いますけどね。やっぱり美容師さんの平均年収300万弱っておかしいんで。お客さんの人数変われへんとしたら、美容室に落としてもらえるものを増やすしか対処方法はないんです。こんな民族いないわけですよ。休みは講習行ってお金払って、給料をどんどんセミナーに突っ込んでる人もいっぱいいてる。でもなかなか生活が良くならない。

 

めっちゃめちゃ働いてても業界トップの人でも売上300万ぐらいしかいかないですよってなったら、やっぱりちょっと寂しいじゃないですか。だから、芸能人とかと同じようなポジションに超ウルトラ稼いでる美容師さんとかが行けるっていうことになれば、それがいいなと思うんですよね。

プロフィール

木村 直人(きむら なおと)

LOVEST KYOTO|エグゼクティブ・プロデューサー

devoted|エグゼクティブ・プロデューサー

国際文化理容美容専門学校卒業。日本武道館でのヘアショーに出演などステージにも立ち、ナチュラルで洗練されたヘアスタイルやヘアカラーが得意。美容系プロダクト開発や美容室の運営ストラテジー、アドバイザー、各種セミナーやオンラインサロンなど多方面で活躍し、美容業界において革新的な取り組みを行う。著名人からの支持も厚い。2022年11月よりBeauty Terminalのアプリアンバサダーを務める。

 

黒木 利光(くろき としみつ)

CHARLES DESSIN|オーナー&スタイリスト

美容技術に特化した7名のスペシャリスト集団「YAVENGERS」など、複数の美容集団に所属。三都杯グランプリ、ゴールドウェルカラーズーム2015、2016ジャパングランプリなどビッグタイトル多数。また、シザー1本で創り出す彫刻的なカットで日本一を4回受賞。時代性や女性像に合わせたデザイン提案、デザインカラー、傷まないパーマが得意で、著名人からの支持も厚く講師としても活動中。2022年11月よりBeauty Terminalのアプリアンバサダーを務める。

EDITOR’S REVIEW

いかがでしたでしょうか?

デジタル化への向き合い方から給料格差の問題まで、幅広いお話が伺えましたね。視点は違えど、おふたりが本質的に業界を捉えていること、そして今後への思いが伝わってくる対談でした。

 

近々公開する第2回では、「10年後の美容業界」の続きをお見せします。自分をすり減らさない持続可能な働き方とは、時代と共に変化する人材の価値観は今後どのようになっていくのか、など、未来の美容業界をより良いものにするためのヒントがきっと見つかるはず…。第2回もお楽しみに!