長時間労働の有名サロンから海外へ

――現在のキャリア、経歴は?

今はシンガポールの日系美容室です。渋谷の有名サロンで3年ほど経験しました。そこのスタイリストに鍛えられたよ、結構もうバリバリの頃。お客さんが社長さんとか、本当に有名人だけみたいな感じでした。めちゃめちゃ手震えながら、前澤社長のリタッチとかして。 ただずっとフルで働くってなるとなかなか厳しいところもありますね。やっぱり有名店で例えば撮影が入るとか、本当に単純に営業時間が長いです。どうしても売上を立てて行かなきゃいけないから一日14時間とか仕事をしていると、自分の子供との時間が取れない。それで業務委託でいった方がやっぱ時間も取れるし給料も上がるし、とそんな感じでしたね。愛する子との時間を大事にしたいのに、その時間も奪われてもどかしいのが大きかったですね。

――海外に行こうと思ったきっかけは?

離婚でしたね…。あの、それで娘になかなか会えなくなるから。「とーちゃん、海外でかっこいい!みたいなところを見せたい」っていう思いがありました。同じ渋谷にいたらなんか、どっかにいるかもしれないとか、なんか考えますよね。だから僕は物理的に環境を変えることを決めました。行きたかった海外にチャレンジしようと。 あと小っちゃい頃から割と身内に外国人がいたというのもあって。いとこはミックスだし、音楽とかも好きだったので。英語の歌詞の意味がわかるいとこがすげーなみたいな。そんなこともあって、海外にずっと興味がありました。そして日本が退屈でした。

BT

海外美容師、海外の魅力

――日本が退屈!どうしてそう思ったのですか?

日本って、だいたいみんなが同じものを好きじゃないですか。みんな同じやなぁ、みたいなのがあって、退屈というかちょっと面白くないなと思っていて。たぶん僕、変人なので(笑)。自分が日本でおじいちゃんになっていく将来像がイメージできないなと思って、漠然と将来に対しての不安があったんです。「あーなんかこのままで大丈夫かな」みたいな。日本はこう、多数決が正解だったりするじゃないですか。なんだろう…、宿題やってくるのって当たり前だし。「やらない」っていう選択肢はないみたいな。そういう違和感が小さい頃からあったのかもしれないです。それから、いとこがカナダに移住したので、海外での生活は選択肢として自然にありました。

――なるほど!それで海外へ行かれて、海外で美容師をすることの魅力を教えてください。

経験値ですね。価値基準が違うっていうのもまさにそうです。たくさんの国の人がいて、いろんな考え方があるので、経験値は格段に上がる。本当にそれは実感しました。白人の人の髪の毛とか日本だとほぼ触らないじゃないですか。でもこっちだと毎日来るから、日本人だけでもいっぱい髪質の種類があるのに、毎日色んな人が来て「髪質の種類ってまだあるのか!」みたいな。同じアジア系でも違いますね。 あと、日本だと毎日お風呂入るじゃないですか?ドライヤーしない人いないじゃないですか。「嘘だろ!?」みたいなことがいっぱい(笑)。化学繊維を使わないっていう人もいて。そういう人とかもう皮脂が結構しっかり吸着されてるからカラーが染まらない。本当に同じカラー剤使っても人によって発色が違うし、パーマのかかりも違う。毎日「うわ〜!!」ってなってました。

BT

――サロンにくるお客様ってどこの方が多いんですか?

サロン全体だと6割がローカル、4割が日本人って感じです。でもスタイリストによってもまた異なります。僕は今1年働いて、だいたい7割強がローカルの人です。たぶんローカルの人からすると、日系サロンって日本人美容師だから安心みたいな感覚ですね。シンガポールでは中華系、マレー系、インド系が大きく占めているんですけど、3割の人は外国人です。ブラジルとかアフリカンアメリカンとかヨーロッパ系とか。

――幅広いんですね。

そうなんです。だから一人ひとりで施術のやり方を変えるんです。髪を巻かない人も結構いるので、今までウエットでカットしていたのをドライでカットした方が喜ばれたり。こっちのお客さんは、ほぼほぼレコメンドしてくれって感じなんです。「どうしたいの?」とかって聞くと、「知らない」って言うんですよ(笑)。「ちょっと伸びてきたし、なんかやったほうがいいかなと思うから来た」みたいな。 だから今、インスタグラムにあるようにレイヤースタイルばかり作ってるんです。「俺はレイヤーがめっちゃ得意だから、俺にレイヤー切らせてくれ」という強みを今はしっかり持ってやってます。カラーも明るくしたいのか暗くしたいのかだけは聞いて、あとは「俺にまかせてくれ」みたいな。 

――どういう風に勉強してるんですか?

やってみて。ですね。初めて出会う髪質に触れたときに「毛髪知識の勉強せな!」ってなりました。最初はYouTubeとか見たりしてたんですけど、使ってるプロダクトが違うんですよ。うちは日本のプロダクトを使ってるから参考にならないんです。日本の薬剤はアジア人の髪質向けなので、ヨーロッパ系の人に対して合わなかったり。パーマをかけたらパンチパーマみたいになったり(笑)。

――それは衝撃的ですね!

でもなんとなく、濡らしたらなんか撥水毛だなとか吸水毛だなとかなんとなくでも分かったら、とにかく店の薬剤について調べまくるんです。例えばチオグリコール酸とシステアミンとの違いについてもう一回しっかり調べる。この薬剤は何%くらい入っているから、何分くらいで軟化するだろうと考えるようになりましたね。薬剤知識は結構しっかり勉強しないとやばいです。 日本だと日本人の髪しか触ってなかったら、なんとなくこうなるでしょって感覚でできる。それがこっちだとまじでちょっとミスったらめちゃめちゃチリチリになっちゃったとか。「いけるっしょ」とか思ってたら全然いけなかったとか。それでめっちゃ勉強しましたね。

――日本との違いはどんなところですか?

違いは結構大きいです。言語が違うね。って全く勉強してこなかったんだけどね。事前になんとなくしたけどそんなもん付け焼刃なんで。まず聞き取れないです。何言ってるかわかんないからへらへらして進めて、めっちゃクレームみたいな。外国人が多いから英語力が僕と同じくらいのレベルのブラジル人とかもいて、英語が通じなかったりしました。いやぁ英語力は本当に大事です。本当に何言ってるかわかるかっていうのは超大事。 4割くらい日本人もいますが、ほぼ駐在員さんとかその奥さんなので帰っちゃうんです。だから「ローカルの人をどんだけリピートできるのか?」っていうのは全世界の日系サロン美容師共通の課題だと思いますよ。新たに移住してきた人よりは、ローカルの人を集客した方が伸ばしていけるはず。そのためには現地の文化を柔軟に受け入れることですね。ドライヤーしない人を責めないとか、オイルつけた方が良いよとかもあまり言わないとかね!(笑)ちょっと伝えるけど押し付けない程度にね。

BT

きっかけは転職サイト

――働き先はどうやってみつけたんですか?

日本にいる時に、転職サイトめっちゃ見て履歴書を送りました。とにかくどこでもいいから海外就労を40件ぐらい。面接で落ちたりとかもあったし、その中で最短ルートが今の会社だったんです。僕はとにかく即行動です。行ってから考えればいいって思っていました。日本にいて考えるのも行ってから考えるのも結局は同じだから。とにかく行くって感じでした。

――行ってみて、これは通用すると思ったことはありますか?

メンズカットですね。男同士で、会話しなくてもノリで通じ合えるんですよ。「さっぱりめにして」って言われたら「これどう?」って見せて、「これかっこいいね!」「OKまかせて!」みたいな。 だから最初はメンズ比率が高かったですね。ローカルでもメンズのリターンだけは多かった感じでした。心が小学生の男の子なんでね(笑)。会話ができなかったその頃は話をあんまりせずに進めて、最後「かっこいいね!いえーい」って。でもやっぱまたきてくれるっていう感じはありました。会話がちょっとできるようになった最近でも下品な話で盛り上がったりして、本当ありがたいですね。言葉いらないんですよメンズ。

――逆に悪かったことでギャップを感じたことはありますか?

セニングを嫌がる人が、どの人種でもいるんですよ。傷むとか広がるとかっていうイメージが多分あるんでしょうね。セニング使おうとすると、「それやめて」って言われたり。それは結構な衝撃でしたね。それでスライドカットとかやったことなかったんですけど、こっちに来てから覚えました。この辺りは技術で持っておいた方が絶対いいですね。

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ケバブ屋さんを開きたい

――これからの目指すまたチャレンジしたいことは?

美容師を今後ずっと続けるかは正直わかりません。ウエスト東京っていうお店を開きたい。サムライケバブっていうケバブ屋さんも開きたい。それから問屋さんも開きたいんです。メーカーがバラバラなんですよ、ディーラーがなくて一括で注文できないんです。 日本の技術って本当に良いものだと思うんですよ。美容室と繋がってセミナーも開きたいんですよ。オンラインだと日本で頑張ってる人達に向けてもできるし。そういうのをやっていきたいなぁと色々思っています。なるべくやりたいことは具体的に考えるようにしています。頑張る父ちゃんでいたい、娘が大好きって言ってくれたまんまの父ちゃんであり続けたいと思っています。

海外はゴールじゃない

――将来、海外を目指す美容師に伝えたいことをお願いします。

海外に行っても目的のない人は腐ります。そんな人いっぱいいるんです。自分はどんな人物になりたいのか、何をしたいのか?としっかり問いかけて、行くんだったら人生かけて行ってほしいです。 僕は海外に行くぞって決めた時に、覚悟しました。ずっとカットモデルとかから来てるお客さんは7年とか8年とかの付き合いとかになってくる。家族よりも長く会ってて、地元の友達とかよりも仲が良くてご飯も行く。でもこの人たち、僕がいなくなったらほかの美容室に行くわけです。海外へ行って帰ってきたときに、また来てくれるとは限らないんです。 そういうお世話になった人たちとの繋がりを…、ある種捨てるというか…。こうお別れしているわけで。うん、今まで培ってきたものとかはもう全部捨てて行かないといけないです。そこは覚悟が必要でしたね。僕はそこが結構大きかったです。

――数ヶ月楽しむがてら経験に行きますとかって話とはまた違いますもんね。

うんそうです。よっぽどの覚悟を決めてやんないと結構厳しいですね。文化も違うし、言葉も違うし。日本で10年やってきた技術だって本当に通用するのかは分かんない。でも日本人っていうだけで海外でもなんとなくお客さんがついてる美容師も結構いるんです。まあ今はいいけどね、それで歳だけとってビザ更新できなくなったら、40とかすぎて日本に帰んなきゃいけないじゃん。日本に帰ってどうするんですか?5年とか海外にいたら日本に帰ってお客さん多分いないじゃないですか。もう美容師辞めるしかないの?ってなっちゃうから。 他の色んなサロンさんを見せてもらっても、本当にそういう人っているんですよ。その辺は結構甘くないです。永住権をもらわない限り、どこの国であっても海外就労にはビザがあるので。だから、海外に行くことが目的ではなくて、何をやりたいのか何を成し遂げたいのかというのがほんと一番大事だと思います。

――t2さんも今挑戦中で楽しい!っていう感じですか?

お客さんが喜んで帰ってくれたらそりゃ楽しいですね。でもなんだろう…、掲げてる目標との距離がやっぱりまだまだあると思っています。売上をもっと伸ばさなきゃいけないし、自分をもっとみんなに知ってもらわなきゃいけないし。課題が多すぎて「楽しいぜ!」って感じではないんですね。でも旅行をするのとか、海外での生活は本当楽しいですよ。

プロフィール

t2

Studio Flamingo |トップスタイリスト

現在はシンガポールの日系美容室でスタイリストとして勤務中。 昔から学校嫌いで美容学校も留年、21歳から渋谷の美容室で2年ほど勤務。その後は某有名サロンで3年ほど勤めてスタイリストになる。結婚して子供が産まれたのをきっかけに業務委託へ移行。その後シンガポールに移住。

Instagram:https://www.instagram.com/t2_hair_design/

EDITOR’S REVIEW

いかがでしたでしょうか??

今回は現在シンガポールで働かれているt2さんにインタビューさせていただきました!海外のリアルなお話はとても勉強になりましたね。海外移住の厳しさと共に、努力の先にある可能性に勇気づけられる、そんなインタビューでした。

t2さんはインスタグラムでも海外移住のヒントを発信されているので、気になる方はぜひ覗いてみてくださいね✨
それでは、次回の【美容師と世界の歩き方】もお楽しみに~