海外渡航は「逃げ出したい」の一心で
――東京のご出身ですか?
出身は岐阜県なんです。その後東京の専門学校にいきましたね。そこを卒業してからは都内の美容室で3年働いて、ジュニアスタイリストになった後に就労ビザでドイツに2年間。その後都内の業務委託で2年勤務して、27歳でオーストラリアに行きました。
――最初にドイツに向かった際には、精神的・身体的にかなりハードで環境を変えたいという気持ちがあったそうですね。
本当に逃げ出したいという思いだけで行きましたね、そのときは。そのサロンは大きいところではあったんですけど、まあ厳しかったんですよね。練習だったりはちゃんとしてるんですけど、まあ、何ていうんだろうな…“ザ・美容室”って感じですね。本当にまあ昭和体質な、昔ながらの感じでした。16時間か17時間とかぶっ続けで働くんで円形脱毛症できてましたし、体重もその時48キロでしたし。
労働環境の良さはメリットでありデメリット
――ドイツへ行った際、日本との違いなどを感じたことはありましたか?
やっぱり働き方の時間やお金の面が日本と全然違うなーって感じましたね。仕事時間外は仕事しないですし、お金に関してもしっかりした考え方がありますね。特にヨーロッパだったり、アメリカ、オーストラリア、カナダあたりはしっかりしている印象です。
――それゆえスキルアップには苦戦したそうですね。
まず技術が全然足りてなかったんですよね、その時は。海外で美容師やっていくのに必要な情報も全くなかったので、何が必要か、どんな技術が必要かも分からない。ドイツ語も全く出来ないし…っていう状況だったんですよ。
――日本のような教育が受けられるわけではないんですね。
はい。それが海外のいいところであり、悪いところですね。完全に仕事とプライベートを分けているので、残業しつつ教育をするスタイリストがいないんですよ。全員定時で帰っちゃう。給料もいいしスタイリストとしての環境はかなりいいんですけど、アシスタントだったり勉強する側からすると誰も見てくれない、レベルアップする速度が低くなるっていうのはデメリットですね。特に当時(約10年前)はインスタやYoutubeがまだ発達していない時代だったので、本を見たりして知識を付けてから自分でトライアンドエラーをして…っていう感じでしたね。
――その一年後から語学学校に通われて、ドイツ語の勉強に勤しんだんですね。
そうです。集客も技術も全然足りていなかったので、お客様を全く満足させられなかったんですね。その結果1年でクビになりました。2年契約なのに残り1年、海外で無職でどうしようって。結局一旦美容師を諦めて、語学に生活の全てをささげましたね。1日10時間勉強してドイツの大学に入れるレベルまで習得したんですが、ビザの期限が迫っていたのと貧乏すぎて限界突破したので日本に帰りました。
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――その時は何かアルバイトをしながらとかだったんですか?
アルバイトってできないんですよ、ビザの関係で。だからもう貯金切り崩して、収入もなくって感じです。極限でしたね。ただ、この時の経験が今めちゃくちゃ生きてるんですよ。今オーストラリアですごく充実した生活ができるんですけど、この経験がなかったら、たぶん今僕ここにないかなって。とにかく挑戦する心がないと海外は無理ですね。本当に覚悟を決めて海外に行かないと。楽しいこと、良い経験をしたいから行くっていう甘えがちょっとでもあると、美容師としては絶対に失敗しますね。
――ご自身は苦労された一方で、ドイツにおける日本人美容師のレベルと需要は高いと感じられたそうですね。
そうですね。まあ僕は当時それ相応の技術が無かったので失敗に終わりましたけど、東京で働いていた時の先輩方だったら、英語やドイツ語がしゃべれなくても絶対に成功すると思っていました。というのも、向こうには質感調整や毛量調整をできるスタイリストがいないんです。白人さんだったりヨーロピアンはする必要がないので。でもそうすると、アジア人の髪の毛は切れないんですよ。
あとは、日本の柔らかいスタイルっていうのがかなり世界中で需要が高いんですね。なのでそれをできるっていうだけでブランドがあります。…というのがあったので、日本でもう一回勉強し直してそのレベルに達したところで、失敗から学んだ経験を持ってオーストラリアでリベンジすると決めましたね。自分の人生を賭けて勝負をしに行きました。
オーストラリアでは技術以外の壁が…
――ここでオーストラリアを選ばれたのはなぜですか?
オーストラリアはビザが取りやすいんです。まあドイツでもビザは取れるんですが、ドイツで美容師をするにはもう一回学校に通わないといけないんですよ。美容制度が違って、たしか2年か3年もう一回通ってマイスター制度を取得してからじゃないとお店も出せないという感じなんですね。先のことを考えると気候もいいしビザも取りやすい、という点でオーストラリアを選びました。
――そんなオーストラリアでは基本的な技術は身に付いていたにもかかわらず指名が付かなかったそうですが、なぜでしょうか?
すごく平均的な美容師だったからだと思います。英語が凄く話せるわけでもないし、何か目を引く技術があるわけでもない。別に指名する理由は無いですよね(笑)。 やっぱり日本人美容師ができるすべてがこちらのお客様にウケるわけではないんですよ。こっちにはこっちの価値観やお客様の好みがあるので。特にローカルのサロンで働く場合は、やっぱり白人さんだったりがメインの層になるんです。なので現地のスタイルに合わせていく必要がありますね。
――となると多様性が強い海外では、考え方やヘアスタイルも日本より幅が広いイメージがあるのですが…
そうですね。だから、各国の好きなテイストっていうのはまず頭に入れて、だいたい国籍だったりを最初に見て、その人にコミットできるようにヘアスタイルを作るようにしています。
――そのリサーチは結構されたんですか?
いや、事前に勉強する機会はなくて、本当にむちゃくちゃ失敗しましたね。仕事後に本気で泣いた事も多々ありますし、ずっと悔しかったです。ただ、できることはなんでもやったれ!というスタンスでした。その分得た経験は大きくて、ブロー技術からお客様の価値観まで、たくさんの財産を得られたと思います。海外で長くやってく上でとても重要な経験になりましたね。
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日本人の活路はヘッドスパにあり!
――率直に、日本人は海外でやっていけるのでしょうか?
やっていけます。個人的に思うのは、日本の美容師さんのサービスや勤務態度はずば抜けています。というのも、日本では当たり前のことがこっちでは当たり前じゃないんです。 ローカルのスタイリストは床をまず履かないですし、シャンプーも冷水でいったりしますしね。襟が濡れるのも、顔に水がかかるのも、全然普通です。シャツにカラー剤が付くとかも全然ありますね。なので、日本人の接客やサービスは意識せずともお客様に喜んでいただけます。
――なるほど。そのためか、スタッフを日本語で募集されているところもあるそうですね。
そうですね。大体ネットとか、最近だとまあインスタだったり、そこらへんからお問い合わせはいただきますね。あとはローカルのサロンで働きたいと思っている方は、アポなしで直接履歴書を持っていって、その場でインタビューっていうのが結構多いですね。
――特に通用すると思った日本の技術はありますか?
先ほど述べたサービスに加えてカットとパーマ、そして意外かもしれませんがヘッドスパです。実はヘッドスパってこっちにはなくて、大体皆さん初めてなんですよ。シャンプー台も、こっちのローカルのサロンだと椅子に座って首だけ傾けるみたいなやつなので、リラックス要素がマジでないんですね。 でまあうちのサロンの場合だとフルフラットの「YUMEシャン」を導入していて、首への負担が少ないので寝れる。なので、ツボを刺激したりマッサージしたりしています。ただそれ自体が初めてなので、100%喜んでいただけますね。
――このフルフラットのシャンプー台を導入しているところって、かなり少ないんじゃないですか?
めちゃ少ないんですよ。うちのサロンは今3席なんですけど、当時はオーストラリア全体で7席しかなくて、そのうちの3席をうちが使ってるって感じでしたね。今は分からないですけどね。
――快適なシャンプー台もそうですし、日本人ならヘッドスパもウリにできるということですね。
本当にすごいです。ヘッドスパだけで単価もめちゃくちゃ高いので、いいですよこれは。
語学習得はコミュニケーションがカギ
――語学力に不安を抱えている方が多いと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
日系サロンの場合は、語学力は正直なくても大丈夫です。お客様と会話する機会があるので、自分から話していく姿勢さえあれば語学学校に通うよりも数倍上達は早いです。
僕はこれまでに夫婦2人で300万円以上費やして8年間英語学習をしてきました。ですが、僕たち美容師はコミュニケーションを取ることが本来の目的で、お客様と会話をする中で勉強していく英語は、机に向かう勉強よりも遥かに効率が良いというのが僕の結論です。最初は話せなくても会話を通してレベルアップするので、強い気持ちさえあれば大丈夫かなと思います。そのうえで、うちのスタッフには徹底的に勉強方法や効率的な会話術のシェアはしています。
――なるほど。コミュニケーションを取ろうという強い気持ちさえあればということですね。
逆に言えば、自分から話していく強いメンタルがないと難しいですね、レベルアップは。 あとは、ビザを取得するのにその国の公用語のテストを受けなきゃいけないんですよ。そのレベルがやっぱり高い。特に美容師さんは、基本的な文法や単語を大学受験などで勉強していないですよね。そういうところが英語のテストが難しいなっていうところに関係してきています。だから、そのテストに受かるために英語は必ず通らなきゃいけない道だし、お客様と会話するためにはまた別のスキルが必要だしっていう感じですね。
お金よりも大事なビザって?
――ビザについて詳しく聞かせていただきたいです。
就労ビザは取れますか?永住権は取れますか?というご質問をよく頂きます。答えはYESです。ですが勘違いしてはいけないのは、ビザというのは海外で生活する上でまず一番に考えなければいけないもの。お金よりも大事なものです。それくらい重要なビザは、会社が無限に発給できるわけではなく、限りがあります。なので、どうすれば会社がスポンサーになってくれるのかを考えて、自分から勝ち取る必要がありますね。
なぜあなたがサロンにとって必要なのか?
あなたが会社に貢献できることは?
他のスタッフよりも優れていることは?
ビザの取得を目指すのであれば、常に危機感を持ち、会社にアピールし続ける事が大事です。
――自分自身が何を目的に海外に行くのかを明確にして自分で勝ち取るつもりで行かないと、ということですね。
長期で滞在したい人はそれが必要だと思います。まあ短期で旅行がてらリラックスしたいというのであれば、そこは全く考えなくて大丈夫だと思いますけど。人によりますね。
人生を変えたい美容師さんをサポートしたい
画像提供:yasuさん
――今後の展望についてお聞かせいただきたいです。
独立する気はありません。労働者が守られている環境や日本に比べて遥かに高い賃金を考えると、独立するメリットはあまりないかなと思っています。それよりも、過去の僕が感じていたように人生を変えたいと思っている美容師さんをサポートして、一緒に仲間として今のサロンを更に大きくしていきたいと思っています。
あと、オーナーにはこれまでにたくさんサポートしていただいて、とても尊敬しているんです。僕はまだまだ人として美容師として足りないことだらけなので、オーナーのような人間になりたいと思っていますね。そしてそんな僕を見て、また下の世代の子たちが付いて来てくれるような存在になりたいと思っています。
続ける努力ができる人は必ず成功する
――海外を目指す美容師さんにメッセージがあればお願いします。
海外で美容師をするというのは想像以上に大変な事です。短期であれば楽しい事がたくさんあって、時間や給料も高いのでいい経験になるかと思います。ですが、人生を変えたいという覚悟で海外美容師をするのであれば相当な覚悟が必要です。楽しい事は2割、辛い事が8割という感じです。フィジカル的に大変ですし、精神的にもかなり不安になります。
それでも、続ける努力ができる人は必ず海外でも成功できます。今現在の技術力や語学力に不安を持つ必要はありません。美容師底辺だった僕がなんとかここまで生きてこられたので、これを見ているみなさんはもっと可能性に満ち溢れていると思います。
プロフィール
yasu
Hair Collection Tokyo|マネージャー
都内の美容室で3年働いた後、就労ビザでドイツに渡航。2年間後に帰国し、都内の業務委託に2年勤務。その後27才でオーストラリアへ。現在はオーストラリアのパースにあるHair Collection Tokyoでマネージャーに就任。サロンワークと教育、人材管理を行っている。
Instagram:https://www.instagram.com/hairdresser_overseas/?hl=ja
ブログ:https://美容師海外移住計画.com
いかがでしたでしょうか??
今回は現在オーストラリアで働かれているyasuさんにインタビューさせていただきました!海外のリアルなお話はとても勉強になりましたね。海外移住の厳しさと共に、努力の先にある可能性に勇気づけられる、そんなインタビューでした。
yasuさんはインスタグラムやブログでも海外移住のヒントを発信されているので、気になる方はぜひ覗いてみてくださいね✨
それでは、次回の【美容師と世界の歩き方】もお楽しみに~