高校は行かずに専門学校へ

――タイで働かれていたそうですが、現在は日本に戻られているんですね。

はい。ビザが切れるので去年帰ってきました。前社で働いていた時の同期の子がお店をオープンするということで、オープンした4月から一緒にやっているという感じですね。お店は千葉にあります。出身も千葉です。

――そうなんですね。専門学校も同じく?

千葉です。僕、中学卒業してそのまま専門学校に入ったんですよ。パリ美容専門学校ってところが“中卒でそのまま入れるクラス”というのを新設したんですけど、それがちょうど僕の中学卒業と重なって。そのまま入りました。

――なるほど。じゃあ一期生ですか?

そうです。それで17歳で千葉のサロンに就職しました。そこでは20歳のときにスタイリストになって、22で海外行って、2022年に25で帰ってきました。同い年よりも高校分早いので、全部が3年早く進んでいってる感じですね。

まあ今となっては3年早く始めて本当に良かったです。その3年分で同い年の子たちよりも色んな経験ができたので。変な話、だらだら高校で3年間過ごすんだったら自分のやりたいことに3年間当てた方が良いですよね。

 

言葉の通じない環境で試してみたかった

――千葉でスタイリストさんとしてデビューされて、なぜ海外へ行こうと思われたんですか?

全く言葉が通じないところに行ったときに、自分の技術とか日本の技術・接客ってどれくらいのレベルなんだろう?っていうのを思い始めたんです。一応同い年の子たちより3年早く始めたので、最初の頃はやっぱりその子たちよりも先を行ってた感覚だったんです。同い年の子たちがアシスタントで僕はスタイリストで、まだ頑張って先走っているような気がしていたんですね。

けどその子たちがスタイリストになったりとか同級生たちが大学卒業して社会人になるタイミングで、このまま普通に日本でスタイリストやってて良いのかな?みたいに思い始めて。東京とか大阪に出るのも言葉通じるしつまんないなと思って。

――自分の力量を測ってみたくなったんですね。

大学を卒業した子たちが社会人一年目になるタイミングで、この子たちにできないことをやろうと思って。それで海外に目を向け始めました。社長に話をしたら「タイだったら紹介できるよ」と言われて、そこで東南アジアいいなぁと思って。これから発展していく国だし、今まさに経済的にも豊かになっていっている国だったので、そこでちょっと挑戦しようと決めました。

――そうだったんですね。語学での不安はありませんでしたか?

語学自体はなんだかんだなんとかなるんじゃないかなと思って。言葉が通じなくてもコミュニケーションはとれるから。言われたものを返すって、やっぱり言葉が通じればなんとかなるもんだなってスタイリストやってたときに思ってたんです。だからこそ、さらに自分の現在地を確かめる上でも言葉の通じない中に飛び込んだら面白そうだなって(笑)。

――そこでワクワクしたんですね!

そうですそうです。その感覚だけです(笑)。だから海外行くって決めて、半年ぐらいでもう行っていましたね。

 

日本人美容師がタイで働く魅力

――タイで働かれてみて、タイで美容師さんをする魅力ってどんなところにありましたか?

たぶん東南アジア全般なんですけど、日本人美容師って結構優遇されて求められるんですよ。僕が働いていたサロンはバンコク内でも超高級なショッピングモールの中に入っていたので、社長さんとか芸能人、モデル、みたいな人たちもやっていたんです。先住の日本人のお客さんだけでなく、現地のそういう人たちもちゃんと認めてくれていましたね。

ヨーロッパだとやっぱりクリエイティブさを求められるし、自分で認めさせていかなきゃいけない文化があるから日本人はまだ弱かったりもするんです。なので、東南アジアで最初に「海外」っていうのを経験してからヨーロッパに行ってもいいと思います。タイでもヨーロッパのお客さんはいたので、ステップアップする第一歩としてはすごいおすすめですね。

――ローカル受けが良いんですね。そこの美容室ではどういった経験をされたんですか?

まあでも日本じゃ絶対にできない、現地の本当にすごい人たちをやっていました。なのでそれ相応のクオリティを求められたりとかはしましたね。あとは、向こうって昔の日本みたいな感じでスタイリストの立場がしっかり上なんですよ。

日本でも「先生」って呼ばれてた時代あったじゃないですか。本当にそんな感じで、スタイリストの人がどんどん提案して、どんどん自分のカットとかカラーで創っていって認めてもらうっていう感じ。なので、そこは日本と全然違うなっていう感じがありましたね。

――スタイリストが主導して創っていくんですね。

なんかこう、いい意味でこっちが上に立たなきゃいけないですよね。プロとして技術と知識を身につけなきゃいけないし、それを提供しなきゃいけないっていうところは。

日本ってSNSとかも今すごい盛んなので、お客さんの方が情報持ってる場合ってすごく多いじゃないですか。そうなると逆転しちゃうというか、どうしてもお客さんに教えてもらうことがすごく増えてしまうと思うんです。向こうももちろんSNSはあるけど、美容室に来て髪の毛をやっている以上はスタイリストが上に立たなきゃいけないですし、まあ、立ててくれるしっていうところで。一人ひとりが刺激的だし重かったですね。

――タイの国自体の魅力はいかがですか?

国の魅力は、日本人にとってめちゃくちゃ生活しやすいですね。日本食もあるし、物価は安いし、気候は暖かいし。本当に僕は大好きです。とにかく住みやすい!都市でいうと、バンコクってロサンゼルスの次に日本人多いんですよね。それぐらい日本人として溶け込みやすいのかなと思いますね。

 

日本との違いを感じたこと

――日本との違いや壁を感じたことはありましたか?

言葉ですね、まずは。僕の場合はそこを味わいたくて行ったんですけど、「あ、やっぱしゃべれないって結構厳しいな」って。最初に思ったのはそこですね。 環境も、お店は6店舗ぐらいあったんですけど、僕が勤めてたお店には日本人は僕だけだったんですよ。行って最初の3日間くらいは日本人と一緒に働いてたんですけど、そこからはもうずっとその店舗では一人。

3日じゃ何もしゃべれないし、英語も別にしゃべれないんで、いやもう本当…最初の3カ月ぐらいは本当に地獄でしたね(笑)。言葉の壁は最初大きいので、行く人がいればちょっと英語を勉強した方がいいかなと思いますね(笑)。来るお客さんの質がちゃんと高いので、英語はだいたい伝わります。

 
 
 
 
 
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――そうだったんですね(笑)。言語の壁と、他にも何かありますか?

本当に多国籍なので国によってこだわりが全然違くて、そこはすごい大変でした。写真の通り仕上げても「違う違う!」って言われて、カットしている最中でも「もうこの人できないから変えて」とかっていうのも全然あったし。

――それはシビアですね…(笑)。

シビアです(笑)。日本人って施術中にはあまり言わないじゃないですか。けど外国人はもう目の前ではっきり言われるんで、メンタルがめちゃくちゃ強くなりますね。メンタルと人間性の幅、その対応力というか…は広がります。

あとは、技術も向こうはブローがメインなんです。パーマもグリグリにかけてブローで伸ばすみたいな、本当昔の日本みたいな感じなんですよ。で、そのブローも1日じゃなくて3~4日持つぐらいガッツリしないといけなくて。向こうの人って毎日頭洗わないので自分でセットができなくて、シャンプーとかブローとかでお店に来る人もいるぐらい。そういうところはすごいガッツリやらないといけないっていうところが最初は大変でしたね。

カットとかは、日本人はベーシックができていれば全然通用するんで。そこはもう全然日本人の方が上手いし大丈夫です。けど、ブローと、あとはタイ人の髪質的にカラーが全然明るくならないんですよ。日本人が思っている以上に何トーンか上げて塗らないとその色にならないっていうのも結構ありますね。

薬剤も、日本と違う薬事法なので6%の上の9%とか12%があるんですよ。なのでその作り方とかはすごい大変でしたね。上がんないから9%使わないといけないとか。

――ちょっと怖いですね。

そうそう。でもタイ人とかはガンガン9%, 12%は使うんで。じゃないと上がんないし。その薬剤的なところが難しかったです。

――パーマとかも同じことが言えそうですね。

ですね。かかりにくいとかはありますね。でもパーマはやっぱり日本人はめっちゃうまいですよ。カットとパーマは日本人上手ですね。パーマできないタイ人とか多いですし。向こうって美容学校ないので巻けない人も多いですからね。

 

タイは美容学校がない!?

――美容学校がないんですね!? タイの教育システムってどのような感じなんですか?

美容学校がないので、明日から美容師になろうと思ったらなれるんですよ。なのでまあ美容室で働き始めて、その美容室の中で教育していくっていう感じですね。しかもそれを絶対営業中にやらないといけないんですよ。遅刻してくるのは当たり前だけど帰りは定時ピッタリで帰るので。残って練習するとかっていう感覚がまずないから、営業中にシャンプーとかブローとか教えてるって感じですね。

――聞いた話によると、最初シャンプーマンから入ってチップがちょっともらえて、そのチップを貯めてカットスクールに通うみたいな…。

そういう感じあります。僕が努めていたサロンはアカデミーとかもしっかりしていたので、仕事の一環で早く上がってアカデミー行って練習してっていうのをやっていました。

――でもたしかに、労働時間考えたら本来そうなりますよね。日本のこれが当たり前じゃないんだなぁ…。

そうですね。あとスタイリストになりたくない子もいますから。責任を問われたくないからアシスタントのままがいいって。それだけでもチップもらえるし、お給料もまあ少ないですけどもらえるし。まあ今は日本でもそうなってきているのかなというか、そういう子がいてもいいのかなとは思いますしね。

 
 
 
 
 
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タイに行って成長できたこと。今後日本でどう活かす?

――現在日本に戻られていますが、タイでの経験で日本のサロンにも活かしていきたいことはありますか?

日本に帰ってきてからはもともと働いていたお店で営業していたんですけど、やっぱりこう…今の若い世代の子たちに対してって、上の人たちはいろいろ大変な部分もあったみたいで。その…積極性に関してだったりとか、ジェネレーションギャップがありすぎて。

でも僕は帰ってきたときにそれを全然不思議に思わなかったんです。タイの人たちの生活ぶりとかアシスタントっぷりを見てきていたので(笑)。 だから若い子たちも働きやすい環境を提供することができるかなとは思いますね。その子たちをノせて、ちゃんと働きやすい環境で求めているものを提供できるかなとは。

技術というよりは、見てきた世界観がすごい膨大なものだったので、やっぱり人として成長できたっていうところが一番大きいかもしれないですね。

今後は東南アジアで展開していきたい

――今後のビジョンとかってもう明確にあったりするんですか?

まあでも海外ですね。やっぱり東南アジアかなと思います。タイはもちろんですけど、そこを拠点にベトナムとかマレーシアとか、そういうところで展開していきたいっていうのがあって。

前回行ったときは初めてでしたし、どうしても自分がガッツリ働きながらやらなきゃいけないところがあったんです。けど、今回の千葉でのオープンは自分と同期の二人三脚でやらせてもらっていて、自分も出す側なので今までやってきた知識と経験を活かしてやっています。

向こうでも次のステージに進んで、今度は自分が出す側にっていう感じで考えているので、やっぱり経験のあるところとか近い国から攻めていけばいいかなと思っています。

行きたいと思ったタイミングで…海外を目指す人に伝えたいこと

――最後に、海外を目指す美容師さんに伝えたいメッセージはありますか?

いやもう絶対一回行ったほうがいいですね、行きたいと思っているなら。結局日本っていう帰るところあるんで。行ったら行ったっきりになるわけじゃないので、やっぱり海外に行きたいなら一回出てみて、ダメなら戻ってくればいいし。なんかもっとラフに、やりたいと思った感情のまま行ってほしいなぁって思います。

人生でそんなに思うタイミングって一回あるかないかだと思うので、行きたいと思ったタイミングで飛び出さないと過ぎちゃうし、タイミング的に行けない理由ができちゃったりとかっていうとこに繋がっちゃうと思うので。

なんかこう、海外出たいと思って調べてると、ワーホリとかいろいろあるじゃないですか。何百万必要ですとかって結構書いてあってお金の面で行けないって思う人も多いと思うけど、実際行ってみるとそんなに必要ないですし。僕も30万だけ握り締めて行って全然生活できたんで、お金の面とかもそんな心配することないのかなって。向こうに揃えるものもあるし、日本からも送ってもらえるし。

なにより一つ言えるのは、日本人は本当に上手です。なので安心して、行きたいと思ったタイミングで飛び出してほしいですね。

 

プロフィール

岩田 柚樹(いわた ゆずき)

MOND[モーント]|スタイリスト

やわらかいシンプルなデザインが得意。中学卒業後、パリ美容専門学校に進学。卒業後は千葉のサロン一店舗を経て22歳のときに単身でタイ・バンコクへ。3年間の勤務ののち2022年に帰国し、千葉で美容師として復帰。2023年4月より前社の同期と艶髪に特化したヘアサロン『MOND』をオープン。Instagramでは海外移住のお役立ち情報を発信している。

Instagram:@yuzukiiwata2221

 

EDITOR’S REVIEW

いかがでしたか??

今回は、タイで働いた経験を持つ岩田さんへのインタビューでした!
日本とはかなり異なる文化を持つタイ。とても面白かったですね!
「日本という帰るところがあるから行きたいときに行った方が良い」というお話にも納得させられました😌

東南アジアに興味がある方は、ぜひ参考にしてみてください!
それでは、次回の【美容師と世界の歩き方】もお楽しみに~