日本の未来に絶望し、香港へ

――現在のキャリア、経歴は?

出身は岐阜で名古屋の専門学校に行きました。名古屋のサロンで2年間アシスタントをしてから、東京のサロンで7〜8年間スタイリストをしました。実家のサロンを継ごうと思って岐阜に戻って、その後に香港に行って開業をした感じですね。

――継ごうと思って戻ったのに、海外へ行くことになったきっかけは何だったんですか?

そうですね、、僕は日本を去りたかったんです。日本では夢を叶えるのが難しいなーと思って、香港に来ました。岐阜へ戻った時に、実家のサロンに求人をかけたり美容学校へ挨拶しに行ったり色々したんですよ。でも何の実績もない小さいサロンだったから、全然相手にされなくて。でもね、大きいサロンだと、いろんな条件があってうまくいくわけですよ。もう10年以上前です。その時にちょっと、日本の美容業界に絶望しちゃって。それで香港へ渡ったのがきっかけですね。 

――どうして香港だったのですか?

東京で働いていた時のカットモデルさんに、香港人の子がいたんですよ。その子の紹介みたいな感じです。香港のサロンってどうなんだろう?と、視察も兼ねてちょっと行ってみました。 そしたらめちゃくちゃ親日で食べ物も美味しくて、肌にあったんですね。これはいいなと思いました。実はアメリカとかもちょっとは考えてたんですけど、たしか別の免許が必要だとかで。そういうのもなく、すぐに始められるなと思って最終的に香港に決めましたね。 

BT

――香港ではどうやってサロンを探したんですか?

自分でも探したんですが、結局そのモデルさんから紹介してもらった大きいサロンに行きましたね。香港のそのサロンに所属させていただいて、普通に美容師をやっていました。7年経ったら永住権の申請ができて、ビザがいらなくなるんですよ。そしたら自分でお店も出しやすいかな、と考えました。

――どういうお客様が多く来られますか?

ええそうですね、層は30代から40代ぐらいですかね?うちはインターナショナルなので香港人の方が多いんですけど多国籍ですね。韓国人の方もいらっしゃれば、インドネシアとか欧米系の方もいらっしゃいます。でも一番多いのは、やっぱり現地の香港人の方ですね。 

――そうなんですね!香港で美容師さんをやる魅力を教えてください。

僕は日本でも仕事をしてるので、行きやすいし帰りやすいっていうところがいいですね。3時間で行けちゃうし、便数も本当に多い。親日家が多いですし、お客様も優しいですよ。あとは日本のレストランが多いですし、食事も美味しい。家賃は東京より高いですけど、日系のスーパーもあるし住みやすいです。

香港だと○○をしないと失敗する

――美容師をやっていて日本との違いってありますか?

コミュニケーションですね。日本でもそうですけど、「おまかせで」って言われても本当のお任せではないので。日本だと大体7〜8割ぐらい聞いていけるんですけど、香港だとかなり深いところまで聞いていかないと失敗します。 日本が好きで日本のサロンが好きな方が、日本のヘアカタログとかスタイルを持って来てくれるんですよ。でも、深く聞いていくと最終的には全然違うスタイルになってるみたいな。コミュニケーションで本質を見抜いていかないといけない。それが一番の違いだと思いますね。

――そのようなお客様への対応で工夫されたことって何ですか?

時間をかけて聞いていくっていうことですね。コミュニケーションです。日本だとあやふやな感じでもいっちゃうんですけど。香港では、できないと思ったらもう「出来ない」ってはっきりと言います。その方が伝わりやすいですね。 クレームも、はっきりものを言われるお客様が多いですね。僕ね、日本で返金したことがないんですけど、香港に来てから5回以上は返金しています(笑)。「もう行きたくないから、お金を返してくれ」ってはっきり言われますね。

BT

コロナでマンションごと隔離!ハードな2年間

――香港にお店を出された時ってどんな感じでしたか?

2019年ぐらいですかね、ちょうどコロナの時でした。香港って、タワーマンションで1人でもコロナの陽性者がでたら、そのタワーマンションごと隔離になっちゃうんですよ。封鎖ですね、ロックダウン。開店した日に、地域のお客様が全部それくらっちゃって。全部キャンセルになって。「あー、もう終わったな」っていうのはありましたね。 

――なるほど。なかなかハードな2年間だったんじゃないですか?

そうですね。でもね、ダメでもいいやと思って出したお店だったので、まだ気は楽でした。香港で10年やって、他にやることがなくて日本に帰ろうかなと思ったんですよ。SNSが発達してきて面白くなってきたので、日本に帰っても面白いかなと思って。日本が嫌で香港に来たんですけどね。 でも何もしないで帰るのが嫌だったので、何か残して帰りたいなとお店を出したんです。ダメでもかえって日本で頑張ろうと思っていました。

――ヘアスタイルとか結構アップされてますよね。SNSが面白いなって思うポイントはどういうところですか?

ビューティーターミナルさんみたいに、面白いコンテンツを出していけば登録者が増えたり、お客さんがいっぱい来るなっていうのが分かってきたときですね。面白いなと思って、やろうかなと思ったんですけど、でも結構時間もかけないと無理ですね。 フォロワーを増やすとかじゃなくて、ただ香港で生きた証を残そうかなと思って。あんまり気負いせずに楽にできるのも、魅力ですね(笑) 

お客様の目が肥えているからこそ白黒はっきり

――日本を出て海外でやっていくときに、ギャップを感じたところがあれば教えてください。

日本の高い技術を香港に広めようと思って来たんですけど、うまい方って日本人より全然うまくて。それはギャップに感じましたね。海外へ出たいなら、コミュニケーションをしっかり学ぶことと、基本をしっかりやっておくってことが重要かなって思いますね。なので、基本をしっかり出来るサロンに行ってから大手じゃないとこれからお叱りを受けそうでw海外に来たらお客様の目は肥えているというか。ダメなものはダメってすぐ判断されるので。

――ということは、意識の高いお客様が多いということですか?

そうですね。厳しいというか、白黒はっきりしてるって感じですね。お金払うときはしっかり希望通りにやってほしいみたいなのはありますよね。

イメージ通りに仕上げるのが日本人美容師の売り

――日本人美容師でここは評価されているところはありますか?

言われたとおりにできることだと思いますね。香港に住む日本人の方がローカルサロンに行ったあと、クレームになってうちの店へ来るということがあります。理由が「言ったスタイルと全然違った」みたいな。スタイリストの我が強くて、そのスタイリストのやりたいスタイルになってしまうというクレームがあります。 海外だとスタイリストから提案することが多いんで。だから、ちゃんと聞いてくれて、自分の思ったようにやってくれてる、イメージ通りになるっていうのが日本人美容師の売りだと思いますね。

BT

――香港に日本人美容師さんって。結構いるもんなんですか?

減ったとは思うんですけど、多いと思いますよ。前にいたサロンは10人とか20人規模の大きいサロンで、日本人は何店舗かに2〜3人は配置されていました。あとは香港人スタッフという感じです。

――お客様も多国籍で苦戦したことはありますか?

カラーが特に欧米系の方は全然違うので、日本のカラー剤を使ってやると大変です。全然思った通りにならないので、びっくりしたことがあります。欧米系の方はパーマはかからないことが多くて、だからもう「パーマはかかりません」ってはっきり伝えるようにしてますね。

――そのあたりの勉強はどういう風にされたんですか?

前のサロンで見て覚えましたね。僕が一番初めに勤めたサロンでは毎朝勉強会があって、月1〜2回くらい日本から先生を呼んでカットの練習をしていました。そこでは日本のカリキュラムを香港に持ってきてやってるって感じでした。その後に勤めたところでは、練習は全然しなくて本人に任せるっていうところでした。店舗によって違いますね。 

――海外へ出稼ぎに行こうという話題が増えてますが、実際どう思われますか?

出稼ぎで稼げると思いますよ。でもやっぱり基本がなってないと難しいと思うんですよね。日本にいる間にしっかり基本の技術をやっておかないとだめだなっていうのはありますね。前に勤めてたサロンのマネージャーがベトナム人の方で、技術の基本は全く出来てないんですが喋りが上手かったんです。そうすると売り上げがあがるんです。でもクレームも多かったですwやはり家に帰ってからの再現性は大事。基本は大事。言葉って、日本にいる間にインプット出来てもアウトプットしていないとやっぱり話せないと思うので。稼ぎたいのであれば、技術をしっかり磨いたほうがいいですね。

最後は人格

――松岡さんがこれから目指す姿についてお聞きしたいです。

美容師も経営者も、最後は人格だと思います。人格が良い人は、お客さんがしっかりついて良い経営者になっていらっしゃると思うので。良い人格者になるように、40代で頑張って下積みをしていきたいなと思います。 40代でお店を出してみて、ひとりでできるという答えが出ました。ここからは、「あなたと仕事がしたい」と思われる人になりたいという気持ちがあります。これからは海外で働きたい方に、軽い感じで海外へ来ても大丈夫だと思える「道」を作っていきたいなってのはありますね。

――――安心して日本から飛び出して下さい、その道はご用意致します!みたいな道づくりですね。

俺について来なさいは恥ずかしいです🫣海外へ出ようとする方でも、理由はいろいろあると思うんです。店を出したいならそれなりの覚悟はいると思いますが、プライベートを充実させたいとか、海外経験を積みたいとか、旅行にたくさん行きたいとか多国籍の方をやってみたいとか。そういった色んな道を、ここで指し示してあげられたらと思います。うちに来てもらって、どんどん可能性をつくっていきたいです。 実際に僕はすごい覚悟を決めて、家族を捨てて香港へ来たんですよ。親にも何も言わずに友達も捨てて。行ってから2年ぐらい連絡を取らずにいました。地元では「失踪した?」とか言われてたくらい。今でも日本に帰ってご飯食べに行く友達は一人くらいしかいないですね。でもそんなことしなくても店は出せるので。そこまでしなくていいと思いますね。“志”があれば。

――その覚悟は松岡さんが代わりに経験されたから、あとは受け入れる器があるからいつでもおいでみたいなところでしょうか。「覚悟を決めないと」と考えている日本の美容師さんへの力強いメッセージをありがとうございます!

軽く一歩踏み出してくればいいじゃないですか。英語で接客している日本のサロンも今増えていますね。そういうところに入って英語での接客を経験して、外国人の方が来るところに行ってみて、自分に合うかどうか試してみてもいいんじゃないかな。

BT

――最後にこれから海外進出を目指す美容師さんに伝えたいことがあれば、お願いできればと思います。

僕の好きな人で、原田泳幸さんっていう方がいるんです。前マクドナルドの社長をやっていた方です。その方の言葉で「何もしないで敗北者になるな、何もしない敗北者ほどみっともないものはない」っていうのを本を読んだんです。僕はこの言葉がきっかけで海外に行くことを決心したんですよ。なんかやってから決めた方がいいと。とりあえず前に一歩踏み出して。失敗しても死ぬわけじゃない。技術があれば食べていける! 「元気があれば何でも出来る!」じゃないですけどね。技術があればなんとかなる!みたいな。その技術が、海外の方の安心につながります。それが日本を信用して来てくれる要素でもあるんです。しっかりやってれば大丈夫です。

プロフィール

松岡篤史
株式会社 HAIR QUEST(香港)| 代表
KEI HAIR SALON (日本/岐阜)|デザイナー
名古屋、東京のサロンを経て独立。英語、日本語、広東語の三か国語を話せる語学力とコンテストで賞を受賞した技術力を活かして現在は岐阜と香港の二拠点で活躍中。
Instagram:https://www.instagram.com/hairquest_atsushi/?igshid=NTc4MTIwNjQ2YQ%3D%3D

EDITOR’S REVIEW

いかがでしたでしょうか??

今回は日本と香港で働かれている松岡さんにインタビューさせていただきました!コロナ禍の香港で開業したリアルなお話はとても勉強になりましたね。海外移住の厳しさと共に、語学力と技術力の大切さに気付かされる、そんなインタビューでした。

松岡さんはインスタグラムでも海外移住のヒントを発信されているので、気になる方はぜひ覗いてみてくださいね✨
それでは、次回の【美容師と世界の歩き方】もお楽しみに~