海外移住は直感で
――まずこれまでのキャリアを教えていただきたいです。
新卒でGARDEN(ガーデン)を受けたんですが落ちてしまったんです。なので半年地元の名古屋の方で働いて、もう一回ガーデンを受けて受かりました。だから新卒の同年代の子たちと半年ぐらいずれていて、第二新卒みたいな感じでしたね。それから8年日本のガーデンで働いて、GARDEN NEW YORKに3年行きました。その後海外出店の立ち上げで4ヶ月ちょっと日本に戻ったんですけど、またAgu のハワイ店 Finca Beauty Salon に行って、今8ヶ月くらいです。
――海外に興味を持たれたきっかけはなんだったんですか?
もともと海外は怖いとこだと思ってましたし興味なかったんです。けど、当時一緒に働いていた先輩がニューヨークに行くことになって、帰ってくるたびに話を聞いていたら行きたくなりました。
――その先輩はどのようなことを当時PAKUさんにお伝えされたんですか?
向こうはマンツーマンでできるってことですね。その先輩も日本ではアシスタント2人くらいいましたし、やっぱり日本だと一人のお客様に付きっきりで担当するのが難しくて、そこが心苦しかった。でも向こうは全部自分ができるから120%いける。みたいなエピソードをいろいろ語ってくれたんです。最初は働くつもりはなくて旅行で行ったんですけど、そこでいろんなカルチャーショックを受けて。で、あ、ここでやってみたい!!って直感的に思って、翌年ガーデンの方に「ニューヨーク行きたいです」と伝えました。
いろいろな人との出会いがあったニューヨーク
――ニューヨークの魅力を一番感じたのはどの部分でしたか?
ニューヨークは人の移動が電車だったり歩きだったりするので、歩いてるだけで刺激があります。町もある程度歴史があって建物もすごくキレイだし、クレイジーな人もたくさんいるし(笑)、世界があそこに凝縮されてる感じ。軽く関わった人が実は凄い人、例えばフォロワーすごい多かったとか、アーティストだったとか、やっぱりそういう出会いはニューヨークにしかないなって思いますね。
あとはファッションウィークとかもよくあるので、そういうお仕事も身近にあってできますし。ファッションウィークは全部行きましたね。ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリは、全部自分でメール送ってニューヨークにいる間に行かせてもらいました。他にも、休みの日を使ってアシスタントもしていましたね。カット料金が1人200ドル+チップで合計3万円くらいもする米系のサロンで。それで、担当に就かせていただいていたスタイリストさんのお客様のとてつもない豪邸に一緒にご招待いただいて、ご飯をごちそうになったりもしました。そういうのはニューヨークでしかできないので、やっぱり人とのとんでもない出会いがあるのはニューヨークかな。
――いきなりの海外で、大変だったこともあったんじゃないですか?
もちろん英語もしゃべれないで行ったのでいろいろ苦労はしました。モデルさんに来てもらって乾かしている時に「これじゃない」ってぼろぼろ泣き出されてしまったことも。その時は英語もしゃべれないのでなんて言ったらいいかも分からなくて、本当に「アイムソーリー」しか出てこなかった、っていう経験もしました。とにかく言葉が、今だにですけど最初は今以上にきつかったですし、やっぱり思っている感覚も違いましたし。
けどそんな中で、下手くそでも「あなたの英語すごいいいね」とかって褒めてくれる文化があるので自信を持てましたし、「あなたの技術が好き」って言って来てくれた人がすごく多かったです。美容師を9年もやっていたら、日本ではそういうことは絶対味わえないですよね。けど海外でスタートするってなるとできないことがまた増えるので、こういう経験もできるんです。
英語の勉強はYouTubeの編集作業で
――英語はどうやって勉強されたんですか?
英語は今も全然しゃべれないですけど、先輩が言っているのをもうそのまま真似するとか。あと、コロナで3ヶ月間家にいた時に、たまたま美容師英会話のYouTubeチャンネルを作りたいっておっしゃっている方がいて。僕も英語を教えて欲しかったので、だったら勉強にもなるだろうし一緒にチーム入って編集やってくれない?って言われて。で、そのYouTubeチャンネルに入っていました。編集って何回も同じところを聞くから一番効くんです。なのでそういうのでフレーズを覚えてたりとかしてたっていう感じですね。
――話すのは大変だと思いますが、言っていることは結構分かるんですか?
なんとなくですね。分からないこともいっぱいあります。僕のインスタのカウンセリング動画なんかも実際全部は聞き取れていなくて、後々何回も聞いて、こういうこと言ってるんだってやっと分かったり。それでも聞き取れない単語とかもやっぱりあるので、ネイティブの人に最後チェックしてもらう時にちょっと教えてもらったりとか、未だに全然してますよ。
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引用元:PAKUさんInstagram(@ryota.tempaku)
ハワイでは“気づき”を売る
――ニューヨークではファッションウィークなど煌びやかな世界を経験されたとのことですが、ハワイはいかがですか?
ハワイはとにかく最高に過ごしやすいです。なんか四季がないとか気候が一緒なのが退屈って言う人多いんですけど、僕はもう逆に毎日変わらないのが居心地良くて。それと、やっぱりちょっとアメリカな部分もあるけど、アジア、日本の文化もあるので、そういう意味で日本人は過ごしやすいかなと思います。あとは、美容室・美容師が少ないらしく、お客様はたくさん来てくれますね。結果ニューヨークにいるときよりも今の方が圧倒的に客数を担当しているので、美容師として技術がうまくなったなって思えるのがこの半年間ぐらいでした。
ハワイってそんなにオシャレして出かける場所も正直ないので、来店の周期がすごく長かったりとか、髪に対して結構無頓着だったりするんですよ。だけど、そういうお客様に「それじゃダメだよ」って伝えたり、技術よりはそういう気づきとかきっかけを売っていますね。そういうやりがいはハワイの方がすごく感じます。
海外のトレンド事情
――今ハワイのスタイルでトレンドとかってあったりするんですか?
ハワイは本当に面白いですよ。やっぱりアジア文化、日本文化があるので。今でいうと、僕がやっているみたいなカーテンバング…日本ではなんて言うか分からないですけど、なんかそういう前髪っぽいのを作る人がすごく多いです。ニューヨークではそこまで短く切ることは全然なかったので、そこは圧倒的に違いますね。世界一カーテンバング切ってるんじゃないかっていうくらい毎日めちゃめちゃ切ってます(笑)。
それも意外とシンプルなデザインだけど奥が深くて。少し長さが違ったりとか、真ん中だけちょっと短くして横長くとか。あと質感をドライっぽく見せるとか、可愛く見せるかカッコよくみせるかとか、そういうので全然違ったりするんです。なのでみんな全く一緒というよりは、「カーテンバングが作りたいんだけどどんな感じがいいと思う?」「全部あなたに任せるから意見ちょうだい!」って言われることが多いですね。
――ニューヨークにもトレンドはあったりするんですか?どちらかといえば“個”ってイメージです。
意外とそうでもないですよ。もちろんファッション系で突き抜けててめちゃくちゃ攻めてる人も一部いますけど、どちらかというと結構コンサバな人が多いです。毎回同じシンプルなロングヘアーで、とか。だから美容師側も、形覚えて切れるようになったらもうそればっかりみたいな感じです。
コロナ禍のニューヨーク。人通りはほとんどなかったそう。
海外に行くとき気を付けた方がいいこと
――これから海外にチャレンジする美容師さんにアドバイスなどありますか?
まあ、結論全部やっていけます(笑)。ただ、全部責任が個人にあるっていうところは違うかな。自分で働き方の交渉とか提案をする必要があったり。そういう所はちょっと覚悟しとかないといけない部分かなと思います。
ただ、技術とかに関しては何も心配する必要ないですし、英語喋れなくても写真とかでイメージはなんとなく分かるし、正直ある程度できるんですよ。まあみんなが心配しているのはどちらかというとお金とか暮らしのことかなと思うんですけど、アメリカに関してはチップがあるので、一日1人2人さえカットできればまあ食いっぱぐれることはないですね。20ドルもらえたら一日のご飯はどうにかなるので。なので実はお金のこともそんなに心配いらないです。僕、最初に行った時20万しか持っていってなかったし。
――すごい。ニューヨークの20万はなかなか賭けですね(笑)。
あはは(笑)。ビザのこともいろいろあってお金が本当になかったんでね。でも意外とどうにかなるんです。まあそれでもみんな決断がなかなか出来ないと思うんです。でも、“決断”って“決める”に“絶つ”じゃないですか。結構みんな捨てることだと思いがちで、だから捨てられないとか怖いって言うんですけど、一回絶つだけなので実は繋がってるんです。僕もこうして一回いろんなものを絶って犠牲にしましたけど、未だに繋がりある人もいるし。だからそういう決断、“何かを絶つことを決めること”って怖いことじゃないし、一回それを決めないと進めないと思います。
僕は海外行くのにそんな大した理由はいらないと思っていて。なんか行ってみたいんだよなぁとか、そんなんでいいと思うんです。それもめちゃくちゃ立派な理由だと思います。ただなんか周りは求めるんですよね。なんで海外行くの?大丈夫?とか、そんなふわふわしてたら絶対失敗するよ、とか。でも本当にもうフルシカトでいいと思います。日本ってすごくその一歩に壁があるけど、海外の人は当たり前に動き倒してるし、現地で生まれた人なんて本当に少ないぐらい色々なところから来てます。ずっと同じ場所で20年30年生きてますって人の方が珍しいくらい。
ただ思うのは、結局襲いかかってくるのは“自分自身の弱い部分”で、それはどこに行っても同じです。海外行って、僕の場合は英語がしゃべれないとか技術に自信がないっていうものが襲ってきたんです。でもそれって、本質的には日本でも同じような経験してたなと思って。一見違う壁に見えても、結局ぶつかるのは“自分の弱い部分”なんです。だからどこに行ってもやることは変わらないっていうのはすごく思いますね。それに直面した時に自分がどう行動するかっていうのが結局大事です。
ジャパニーズクオリティを世界に
――では今後のビションを教えていただきたいです。
直近でいうと、2月LAに働きに行くんですよ。SNSで結構いろんなところからDMとかコメントをいただいているので。
――いろいろな国で美容師としてのチャレンジをし続けられているんですね。
はい。まあそれだけいろんなところから連絡くるので。マダガスカルの人からとか(笑)、あとなぜか多いのはドイツとギリシャですね。
――ええ!本当に世界中からお声がかかるんですね。
あとはもうちょっと大きく、商品開発もやっていきたいです。まあ作らなくとも、日本にある商品って世界一なので、やっぱりそれをもっと世界の人に届けたいというのがあります。いろんな国のいろんな州の人から連絡が来ても僕が行けるのって限界があると思うんです。けど、商品とかそういうものは自分が行けない国の人にも届けられる可能性がある。
それに、結局DMで髪の悩み相談をいただいた場合、最終的にできることって商品のアドバイスしかないというか…。こういうシャンプー使うといいよ、こういうスタイリング剤使うといいよって話しになってしまう。けどそれも、これ日本にはあるけどアメリカにはないんだよなぁとか、すごくあるんです。そういうのをもう少し届けたいなというのは数年単位でのやりたいことで、今会長と走り出しているところです。
日本人美容師の可能性「チームジャパンとしてやっていきたい」
――最後に、これから海外進出を考えている美容師さんにメッセージをお願いします。
やっぱり1億何千人を相手にしてるところから海外で経験ができれば70億人も分母ができるんで、それだけで可能性は変わります。実際、SNSでカウンセリング動画とかを上げていると、「あなたみたいな美容師さんにやってもらいたい」とか、「私の美容師さんそんなこと聞いてくれない」とかってコメントめちゃめちゃ来ます。そんなにみんないい美容師さんと出会えてないんだってすごく感じて。逆に言えば、それだけ日本人の可能性があるんです。
正直トップサロンに行っても、「わぁこの人すげぇ」って思う人はいい意味で少ないです。それは日本で普段見ていたレベルが高すぎて。まあそこには技術以外のコミュニケーション能力とか見せ方、お客さんとの関係の作り方があって、そういうのはもちろん簡単なことではないんですけど、「あれ、ちょっと頑張ったら自分もできるかも」って多分みんな思えます。それぐらいみんながやっていることは世界トップレベルだし、狭いところでみんなが同じように頑張ってるから難しかったりするんですけど、海外に行けば敵は本当に少ないです。SNS頑張ってる美容師さんもそんなに多いわけではないし、練習めっちゃ頑張ってますみたいな人はいないので。だからこそそこが日本人美容師としての個性になるし、そこはめちゃめちゃ可能性あるなって感じています。
なにより、やっぱり戦力が足りないので、もっと“チームジャパン”としてやっていきたいです。とにかく僕らもこれから展開していきたくて、まあ現地採用もしてきますけど、やっぱり日本人の美容師さんも必要だなっていうのを感じています。なので、「どんどんみんなで行こうぜ!」って気持ちです。日本人の美容師は世界トップレベルなので、全然戦えます!
プロフィール
PAKU(天白 涼太)
Fica Beauty Salon|スタイリスト
半年間名古屋の美容室に勤務したのちGARDENに入社し、8年の勤務経験を経てGARDEN NEW YORKへ移動。3年間でファッションウィークへの参加など様々な経験を積み、その後、ハワイへ移住し、日本でも800店舗を持つAgu のハワイ店、Finca Beauty Salon に勤務。日本人ならではの技術力と丁寧さからSNSに載せているカウンセリング動画が話題を呼び、世界各地からオファーを受けている。
いかがでしたか??
今回はニューヨークとハワイの経験を持つPAKUさんにインタビューさせていただきました。同じアメリカでもそれぞれの地域による違いなど、とても勉強になりました👀
個人的には「海外に行くのに大した理由はいらない」という言葉がすごく刺さりまして…。まずは国を出てみることでそこから新たな道が開けてくるのかもしれませんね!
周りの技術力も高い日本で思い悩んでしまっている方こそ、一度海外にも目を向けてみてはいかがでしょうか?