住吉さんはこんな方

住吉 望(すみよし のぞむ)

名古屋の美容室sutの代表。カットではなく「カットの教育」を専門とする、ヘアキャンプNo. 1カット講師です。フォロワー数2.4万人のInstagramでは、シンプルで分かりやすい理論をモットーに美容師向けのカット理論を発信しています。

デザインの添削を行う「赤ペン先生企画」は、約1か月待ちという人気。実習形式のカットセミナーや、業界初のカットに特化したオンラインサロンの開設など、カットの教育の新しい形を模索し続けています。

 

“カットの赤ペン先生”の原点

――美容師になると決めたのはいつ頃ですか?

高校生ですね。けど普通ですよ。もう勉強したくないから大学はイヤだけど、まだ就職もしたくないから専門学校か、って。専門学校って言ったってなんの専門やねんってなって、思いついたのが美容師だった、なんかカッコいいからって、それだけの話なので。別になんか全然ふわ~ってしてます。

――ご出身は千葉とのことですが、専門学校はどちらへ?

専門も千葉です。で、某チェーン店に就職しました。そこの面接で岐阜が人足りないから岐阜行ってくれないかってなって、全然いいですよーって行ったんですよ。なので一年目から岐阜で、そこから中部エリア管轄になりました。

岐阜の他にも何カ所かぐるぐる回って名古屋に落ち着いたので、そこで10年くらい。店長とか中部エリアの技術教育スタッフみたいなこともやりました。ただ、教育ディレクターみたいなのをやってたとき、それが手当ゼロでウィッグ代自腹だったんです。なので、もういい加減にしとけよってキレて、辞めたんですよね。

そっからは業務委託サロンに移って、それからインスタを始めました。というのも、前の勤め先辞めた後に昔の後輩が「教えてくれー!」って何人か来たので、iPhoneで撮って、インスタにバーンって載っけて、「これ見て見返しておけよー」って言ったんですよ。そしたら、知らん人も見られるようになったのでフォロワーが増えていって、「勉強になります。ありがとうございます」なんて知らない人からDMが来るようになったんです。

「あー喜んでくれる人いるんだったらもっと載せようか」って載せてたらフォロワーがどんどん増えていって、気づいたら1万人増えて、それでオンラインサロン始めて。みたいな流れですね、ざっくり言うと。今でこそ美容師向けの投稿っていっぱいありますけど、当時は全くなかったんですよ。だから、バズってやろうとかそれで有名になろう、儲けようじゃなくて、シンプルに「教えてほしい」って子がいたから教えてあげてた、がスタートっていう感じですね。

画像引用元:住吉さんInstagram(@sumiyoshi_nozomu

――始められたのはどのくらい前になるんですか?

4年か5年前くらいですかね。オンラインサロン始めたのもコロナ前なので3年前とか。だから周りがやり始めるのよりも早かったですね。で、そのチェーン店辞めたあとは業務委託サロン2件行って、今年1月に独立しました。

まあ普通の独立とは微妙に違うんですけどね(笑)。デッカい美容室があって、その中に僕専用の個室スペースを作ってもらってるんです。で、僕が家賃払って、そこは僕の城なんすね。だから人のサロンの中に自分のサロン作るって感じで。なんでまあ独立といえば独立だけど、人ん家の中っちゃ人ん家の中、って感じです。

――今色んなサロンのかたちがあって面白いですよね。

そうですね。でも僕のケースはあんま聞いたことないんで、ひょっとしたら初めてかもですね。

 

「262の6にアプローチ」住吉式カット教育のこだわり

――住吉さんはカットの印象が強いのですが、カットに絞られた理由はありますか?

カットはもう元々カットでしたね。ずっとカットでした。カラーとかよくわかんなかったんでね。

――好きだと思うのがカットだったという感じですか?

そうですね。僕ほぼ自己流なんですよ。技術の師匠とかいないし、セミナーとかもほとんど行ったことないし。自分で考えて自分でやってるので、そのときにパーマとかカラーとか絡むやつは化学反応とか見えないし、なんかよくわからんから(笑)。カットはね、切った形になるし、自分で考えれるんで。だからなんか好きだったんですよね。

――なるほど。カットのこだわりはありますか?

僕のカットは…、ほとんどの人って、自分がきれいに切るために練習したり勉強したりした上で、極めたものを教えてあげるよってやってるんですよ。僕はそうじゃなくて、最初から教えるために考えて創り出しています。分かりにくいところとかを一切省いてできるだけ分かりやすくって。

だからなんでしょう…別に僕は、僕が一番じゃなくていいんですよね。自分が一番上手くなろうとか、自分が作るスタイルが一番かわいいとかじゃなくて、普通に上手いのをどれだけ多くの人ができるようになるかっていう考えで理論作ってるので。

画像提供:住吉さん

みんな職人なんですよね。僕は職人じゃなくて、最初から教育者なんで。一流選手になってから監督になったんじゃなくて、最初から監督勉強して監督やってるんで。だからもう根本的に違いますね、僕から見たら。

なので、プロフィールとかにも大体書くんですけど、「専門はカットじゃなくて『カットの教育』」っていう、そんな感じですね。だから僕はスライドカットとかチョップカットとか一切しない。セニングしかしないです。その方が簡単だし、それでできるよっていうのにこだわっているので。

――では住吉さんから教わる方は分かりやすいってお声が多いんじゃないですか?

そうですね。なんか262の法則みたいに言うじゃないですか。頑張る上の2割と、サボる下の2割と、普通の6割。あれでいうと、みんな上の2にアプローチしてるんです。やる気ある頑張る上の2を勝たせてあげるみたいなアプローチなんですけど、僕は真ん中の6にアプローチしてるんで。

そんなめっちゃやる気出して頑張るほどじゃないけど、休みつぶしてセミナー行くほどじゃないけど、けど、カットできるようになりたいな、上手くなりたいな、ぐらいのところがターゲットなんで。だから、やってることが根本的に違うし、ターゲットも違うし。ヴィトンとユニクロぐらい違いますね。

 

先が見えなかった。それでももがき続けた10数年

――教育以外の道を考えたことはなかったんですか?

昔は当然自分がカリスマ美容師になりたいと思ったこともあったんですよ。売上ガンガン上げて、華やかな美容師になりたいと思っていた時期もありました。けど、大きな会社だったので会社内でも上には上がいて、どんだけやっても一番になれる気が全くしなくて。

仮に会社で一番になれたとしても、業界にはもっと上がいるじゃないですか。なんで、「あ、もうカリスマ美容師無理や」と。で、店長やってたんですけどお店の売上も全然上がらないんで、「ちょっとこれ経営者も無理やな」って。だから、「カリスマ美容師もカリスマ経営者も無理そうや」っていうのを20代くらいでもう痛感しました。

それで、どないしよう…っていう。美容師が成功するのってそのどっちかみたいなところがあるんで。 教育をやっていきたくても、セミナーとかってやっぱりカリスマ美容師に依頼が来るんですよね。教えるの上手いかはどうでもよくて、ネームバリューがある人のところに依頼が来るので。

だから、教育を仕事にしたいって思っていても道がなかったんです。カリスマ美容師無理や、経営者無理や、教育でやっていこう、そんな道ないわ、っていうので、全然先が見えないみたいな時期はずっとありました。そう…そのころは辛かったですよね。

――それはどう乗り越えたんですか?

教育が絶対に必要な業界だっていうのは思っていたので、教育がちゃんとできる人にいつかどっかで絶対需要があるとは確信していました。だから、それでも教育に力を入れてやり続けたんです。そしたら、たまたま“インスタがバズる”っていう形で成功して。道も見えないし先も真っ暗でしたけど、とりあえずやり続けましたね。

――信念をブラさずやり続けた結果、タイミングが来たんですね。

そうですね。ただタイミングが来るまで10年以上かかりましたからね。上手くいき始めてからよりも上手く行かなかった時間の方が圧倒的に長いんで、だからまだ油断はしてないですよ。でも、自分の中にちゃんと信念があったら、それを曲げなければまあいつか何とかなる、っていう感じですかね。

――夢は持っててもなかなか形になってこない時期って辛いですけど、継続が大事なんですね。

そうですね。やり続けたらいいですね。

画像提供:住吉さん

 

変わりゆく未来で目指す場所

――今後の美容業界の未来、住吉さんの中でのビジョンをうかがいたいです。

今はSNSが流行ったり、まあSNS以外でもホットペッパーとかもですけど、ネット戦略が上手くいけば上手くいくわけですよね。けど、これからAIとかそういうテクノロジーが進化して検索機能とかが良くなっていくと、ブランディングが上手いとかマーケティングが上手いとかじゃなくて、自分にとって必要なもの・本当にいいものが勝手にマッチングされるようになる。

例えば、「今日髪切りたいな。名古屋駅のすぐ近くで、予算5000以内でカットできて、30代後半のメンズカットでバッチリ刈り上げたヘアスタイルやりたいなぁ」って言ったら、「その予算・条件で、あなたにぴったりの、その中でも口コミや技術もしっかりしている人はこの人です!」って、勝手にマッチングされる。これは近い未来きそう、全然可能だなって思うんですよ。

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で、そういうことが現実に起こったらどうなるかって言ったら、バズるとかそんなのいらないんですよね。いい仕事をしていればそれが必要になった人に勝手にマッチングされるんで。だから、ネット戦略が上手い人が成功するんじゃなくて、ちゃんと美容師として優れている人が成功する。もう実力のみ、品質のみで評価されるっていう風になるなーって予想しています。

で、そうなるって言われたときに、「望むところだ!そうなってほしい」って思う人と、「いやそんなの怖いよ」って思う人といると思うんです。「ちょっとそれ怖いよ」って思ってる人は、今のうちに何とかしないといけないですよね。そんな未来を僕は想像してて…そうなりそうじゃないですか?

――なると思います。もう出来てきていると思います。

そうそう、なんならもう始まってきてますよね。そうなったら、なんちゃってな講師は全部淘汰されて本当にいい講師だけが残ると思うんです。ってなったときにテッペン取りたいわけですよ。

今のカット技術って全部ヴィダルサスーンから始まってるんですけど、その歴史ってまだ数十年なんです。だからまだ全然発展途上だし、ヴィダルサスーンから色んな流派に分かれていって、もういろんな技法、色んな流派がありすぎて今わけわからなくなってるんです。けど、これからのテクノロジーの発達で本当に良いもの一つにギュっと集約されて、バラバラだった流派が全部一つにまとまる。そのときに、それが「住吉式」である。っていうのが僕の目標ですね。だから、そういう時代になるまでにどれだけ本質を極められるかっていうところで。

画像提供:住吉さん

経営とかをやってる人もいて、僕もそれに憧れてやろうと思った時期もありました。でも自分には合っていないなと感じたので、カットだけに集中できる環境を作って専念していくことにしたんです。だから今回の独立も、自分のお店を持って完全に自由にやれるけど、もう予約システムもあるし、商品とか商材とかの在庫もお店にあるやつ使うし。もう経営とかそういうのも全部やってもらって、ただ自由に出勤して、ただ自由に働くだけっていう独立ですね。

だから僕の将来は、カットの教育だけをやっていってそれだけで頂点取るっていう、そういう未来になっております。

――なるほど。いやぁ、最初から信念がブレず…。

そうですね。いや、まあブレた時期もあるんですよ(笑)。あるんですけど、ブレた結果やっぱりうまくいかなかったし、やっぱり違うなって思ったんで。なんか結局原点に返ってくる。で、もうそれ一本で覚悟決めたってところですね。

 

読者のみなさんへ

――最後に、読者の美容師さんにメッセージをお願いいたします。

まあ、やっぱり大変な仕事だと思うんですよ。大変なんですけど、自分でなりたいって言ってなった仕事。全員そうだと思うんですよね。美容学校行ってる時点で美容師になろうと思ってるんです。

自分がやりたいと思ったことを仕事にしてメシ食っていけるっていうのは、もうそれだけで幸せなこと。大変なことも色々あると思うけど、自分の信念を持ってやっていけば絶対もっと楽しくなる。こんな美容師になりたい、こういうことやりたいっていうのをさらに突き詰めてやっていく。そうするともっと楽しいし、成功すると思います!

 

プロフィール

住吉 望(すみよし のぞむ)

sut|代表

カットではなく「カットの教育」を専門とする、ヘアキャンプNo. 1カット講師。シンプルで分かりやすい理論をモットーに、Instagramにて美容師向けのカット理論を発信。デザインの添削を行う「赤ペン先生企画」は、約1か月待ちの人気を博す。実習形式のカットセミナーや、業界初のカットに特化したオンラインサロンの開設など、カットの教育の新しい形を模索し続けている。

 

EDITOR’S REVIEW

いかがでしたでしょうか??

今回はsutの住吉望さんにインタビューさせていただきました。
「カットの教育」という独自の分野で第一線で活躍されている住吉さんですが、そこに行きつくまでにはかなり苦労があったんですね。
それでも諦めずに、そして今も目標に向かって真っ直ぐ進み続けている住吉さんに背中を押された方、多いのではないでしょうか??

住吉さんの今後のご活躍もお楽しみに!